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『黒い雨』
井伏鱒二/著 新潮社 2003年
広島に投下された原子爆弾の被害と、その後を生きる人々の苦悩と祈りを描いた小説です。昭和24年、主人公・重松は姪・矢須子の縁談に対し、被爆していないという証明を昭和20年の日記を清書し相手に示そうとします。重松の日記には、一般市民の目から見た広島の惨状が淡々と描かれています。また戦争が残した深い傷や社会の差別のなか「普通の暮らし」を取り戻そうとする人々の姿は、昭和20年代の実相を伝えてくれます。
『野火』
大岡昇平/著 新潮社 2014年
太平洋戦争末期、日本軍の敗色が濃厚となったフィリピンのレイテ島で結核を患い、わずかな芋を渡されて部隊から追い出された田村一等兵。極度の飢えと病気で半死半生となり、野火の燃え広がる原野を彷徨うなか、戦友が死んだ仲間を食らう姿に直面します。戦場という異常な空間で極限状態に追い込まれた人間はどう生きるのか。著者の戦争体験に基づいた戦争文学の代表作の一つです。
『檸檬』
梶井基次郎/著 角川書店 2013年
主人公は結核を抱え、陰鬱とした雰囲気を漂わせています。そんな主人公を慰めるものは、おはじきや、びいどろ、花火といった色彩豊かなものでした。ある日、果物店で美しい檸檬を見つけると、それを爆弾に見立て、京都の丸善で画本を積み上げて頂に檸檬を置きます。主人公が以前好きだった丸善が、急に色あせて見えた途端、それを壊そうとする描写に、当時不治の病であった結核を患う若者の繊細さや不安定に揺れ動く心情を描いています。
「トカトントン」(『ヴィヨンの妻』に収録)」
太宰治/著 新潮社 2009年
昭和22年に文芸雑誌『群像』で発表された短編小説です。太平洋戦争後、仕事や恋愛など何かに奮い立つたびに「トカトントン」という金槌を打つような幻聴が頭に響き、退屈で空虚な感情に襲われる青年の苦悩を描きます。敗戦後の日本で、社会情勢やスポーツの熱狂など、昭和の目まぐるしい変化の中で、取り残されたかのようになかなか前に進めない若者の喪失感や失望感を表した作品です。
『放浪記』
林芙美子/著 みすず書房 2004年
作者の若き日の日記をもとに記された、昭和を代表する自伝的小説。行商人の両親と過ごした幼少期から、上京後、関東大震災後の変貌著しい都会で職を転々としながらも、文学の道を目指す主人公の姿が描かれます。貧困や、女性であるがゆえの困難を経験する中で、絶望を感じ、己の境遇に毒づきながらも、希望を見出す強さを持つ主人公の姿が、厳しい時代を生きる大衆の共感を得て、当時のベストセラーとなりました。
『父の詫び状』
向田邦子/著 文藝春秋 2006年
雑誌『銀座百点』で昭和51年から53年まで連載されたエッセイで、ドラマの脚本家として活躍していた向田邦子が、作家への一歩を踏み出したとされる作品です。40代後半に差し掛かった自身の日常と、父親を中心とした子どもの頃の思い出が、巧みな場面転換でつながりながら情景豊かに描かれています。時代がかわっても、多くの人が共感できるエピソードにあふれた、昭和を代表するエッセイです。
