プロの味を家庭へ
『人生はフルコース』
佐藤陽/著 東京書籍 1996(平成8)年
昭和30年代、日本は高度成長期を迎え、庶民の食生活への関心は高まっていった。昔ながらのおかずを作っていた主婦にとって、「ホテルや料亭でしか食べられない料理をご家庭で」というテレビの料理番組は画期的だった。
この本は、帝国ホテルの料理人であった村上信夫氏の一生を綴ったものである。彼が、一般の家庭で手に入る材料で作れるように、わかりやすく教えてくれた西洋料理は、現在もお手本にしている人も多いのではないだろうか。NHKの料理番組での講師としてのエピソードを始め、人となりから料理への愛情を感じられる一冊である。
『春夏秋冬料理王国』
北大路魯山人/著 筑摩書房 2010(平成22)年
『料理とは、舌で味わうだけでなく目でも楽しむものであり、料理の盛り付けの美しさのみならず、それを載せる器も味を引き立てるのに重要である。そのため、気に入った器が見つからないと自ら製陶までしてしまう。
幼少時からとことん料理道を追求してきた著者の料理に対する哲学、人生観といった考えをまとめたものである。『魯山人の料理王国』(文化出版局)の復刊。
『陳家の秘伝』
陳建一/著 日本経済新聞出版社 2011(平成23)年
著者は、「中華の神様」と言われる陳建民の子である。その陳家の家庭料理の定番は、「ご飯にあうおかず」。特に中華料理は店で出すような本格的なものではなく、「どこの家でも作れる家庭的な中華料理」だという。
この本に書かれている料理は、プロの技を駆使したものではなく、ごく普通の家庭の台所で作ることができるものである。料理を難しく考えず、家族に「美味しい!」と言ってもらえるようなコツがわかる一冊である。
『天皇の料理番』
杉森久英/著 読売新聞社 1979(昭和54)年
「天皇の料理番」と呼ばれた宮内庁大膳課主厨長秋山徳蔵氏をモデルとした小説である。
秋山氏は上京し、様々な料理の研さんを積んだ後、渡仏する。帰国後、天皇の料理番となってから亡くなるまでの人生が綴られている。
宮中の料理というと晩餐会の豪華な食事を思い浮かべるが、日常の食事はとてもシンプルで家庭料理のお手本ともいえるものだという。秋山氏は「仕事は丁寧に、綺麗に、心を込めて」と後輩を指導したが、そうした料理に対する心構えは私たちが家庭で料理を作る時に通じるものだ。
『年中無休』
田村暉昭/著 朝日出版社 1991(平成3)年
家庭料理と料亭の料理は違うのか。違っていなければ困ると、料亭「つきぢ田村」の主人田村暉昭はいう。外見だけでは判らないプロならではの心遣いがあると。しかし、決してプロが上と偉ぶることはなく、家族のために料理を作る人へのやさしさが文章に溢れている。
四季のおもてなしや厨房哲学などを、プロのヒントと田村氏自身による挿画と手順図を盛り込みながらわかりやすく説明している。巻末に、食材の名前からレシピが引ける索引あり。
『料理心得帳』
辻嘉一/著 中央公論社 1982(昭和57)年
著者は、茶懐石「辻留」二代目主人。新聞や雑誌など様々な分野から依頼された随筆をまとめた一冊。
あとがきに「長短とりまぜてあり、それは料理の煮合わせの、相性に似ております」とあるように、食の歴史から日常の食事風景や料理法まで、芭蕉、一茶、子規などの食にまつわる句と共に彩り豊かにつづられている。日本料理がいかに日本独自の風土を背景に育まれてきたか、また、料理と人生の深い結びつきに気づかされる本である。