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子どもの科学

工学部を卒業し、工学博士の学位も持つという経歴は、絵本作家としては珍しいといえます。それだけに、単に事実を伝えるだけではなく、科学する心・科学する態度を込めたい、という強い思いが、作品のすみずみまでしみとおっています。驚くような特殊例に眼を奪われるのではなく、全体を貫く原則は何かを見極めること。科学を完成したものと捉えずに、これまで発展を続けて来、これからも発展し続けていく動的なものと捉えることなど、いわば世界の見方を学ぶというのが、加古の科学絵本のスタイルとなっているのです。
画像:だむのおじさんたち

『だむのおじさんたち』

加古里子 福音館書店 1959 *2007年、ブッキングより復刊

出版当時の日本の状況に最もふさわしいものを書いてほしいという編集者・松居直の依頼を受け、戦後の電気事情を背景に制作された科学絵本。科学技術と自然を調和させて描くというテーマのもと、ダム建設に関わる人々の苦労や喜びを描き、「ダムは人間が作っている」というメッセージを伝えている。人間の生活に深く根ざした科学というものについて、幼い子どもたちの好奇心を捉えながら伝えたいという信念が、この初期の20頁に満たない作品にも貫かれている。
その後、インドネシアでのダム作りを詳細に描いた『ダムをつくったお父さんたち』(偕成社)も刊行された。

画像:かわ

『かわ』

加古里子 福音館書店 1962

加古を絵本の世界にひきこんだ松居直が、「人間の生活と川を結びつけて絵本に構成できる人はこの人しかいない」と、直接依頼し完成した絵本。加古が考えた “遠近感をなくしてしまう”手法は、各場面に連続性をもたせ、さらに周辺に道路や人、動植物の変化を書き込むことで、連続しているが違う、総合体としての川の絵本が完成した。この手法は後の『海』などの科学絵本を描く上での基本姿勢となる。表紙の地図は周辺流域の移り変わりがわかるよう考慮されたものだが、一方でその上に描かれているのは、加古の2人の子どもたちであり、父親としての姿が垣間見える。

画像:海

『海』

加古里子 福音館書店

『かわ』の続きとして企画された大型の科学絵本。海の中の生態や、海に関わる人々の営みを丹念に描き、海を知るということは地球を知るということなのだ、という壮大な結末に向かって集約していく。余白を効果的に使った構図、干潟で遊ぶ子どもの足元の描写からどんどん視点を広げて、やがて地球を一望するようになる構成は見事。この絵本は、やがて同じシリーズの『宇宙』『地球』『人間』へつながる流れとなる。
それぞれの生物の名称・大きさも記され、巻末に索引もある。読む図鑑としての要素も兼ね備えているのは加古のこだわりであろう。

画像:ならの大仏さま

『ならの大仏さま』

加古里子 福音館書店 1985 *2006年、ブッキングより復刊

誰もが知る奈良の大仏。その大仏はいつ、誰が、なぜ、どのように造ったのか、そしてどのように守り伝えられてきたのか。それぞれのテーマは見開きにまとめられ、史料に基づく詳細な絵と文章でわかりやすく説明されている。大仏建立の経緯を知識として得るだけでなく、全体を通して読んだ時、「大仏さま」と人々がどのように関わってきたのかを一連の物語のように楽しむことのできる本である。

画像:科学者の目

『科学者の目』

加古里子 童心社 1974

1969年から約1年間、朝日新聞子ども欄で掲載された41名の科学者の伝記集。短い章の中で、各人の「業績の中身」を正確、簡潔に伝えながらも、「偉人」として遠い存在になりがちな科学者を、失敗も挫折もある生身の人間として描いており、賞賛が主だった既存の伝記と一線を画している。端々に記される「私はこう思う」という加古自身の見解、そして「君たち」という子どもたちへの呼びかけは、本作を通して子どもの探究心の成長を願う著者の温かさをにじませる。

画像:だいこんだんめん れんこんざんねん

『だいこんだんめん れんこんざんねん』

加古里子 福音館書店 1984

1973年に出版された『だんめんず』は、「断面図とは何か」を絵本にした、他に例を見ない作品。これを再構成し、子どもにもっと分かり易く仕上げたのがこの絵本である。前作に、斜めや縦など角度を変えると断面が変化すること、何の断面かを当てるクイズ的な要素、外側の様子がよくわからないという断面図の弱点についての説明を加えることで、断面図についての興味と考察を深く喚起する、より魅力的な作品となった。

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