一万年以上前から確認されていたといわれる感染症。人類と感染症の関わりの歴史は古く、人類の誕生前にウイルスと細菌が誕生していたと考えると、常に共に歴史を歩んできたとも言えます。本書では疾病ごとの解説の他、ペストの蔓延が中世ヨーロッパ世界をどう変えたのかなどの歴史や社会的影響についても触れています。感染症対策は危機管理でもあると述べている姿勢からは、正しく恐れ、理性的な対応が必要であることが学べます。
現在でも世界で多くの人々を死に至らしめる感染症、マラリアを主題として、人と感染症の関係を生々しく描いた一作。マラリアの基本的な情報から、人類との共生の歴史、人々のとった行動まで、微細に、しかし読みやすい文体で記されています。 寄生虫を病原体とするマラリアは、50万年に渡って人類が闘い続けている感染症です。 かつて地球上を席巻していたマラリアを、狭い地域の風土病にまで抑え込んだ人類の知恵を知ることは、新型コロナウイルスに対峙する私たちのヒントとなるでしょう。
インフルエンザ研究の第一人者である、ロバート・ウェブスターが、20世紀初頭のスペインかぜの流行から、現在までのインフルエンザ研究の歩みを追った一冊です。 当初は起こりえないと考えられていた、人と動物との感染の研究経過など、第一線に経ち続ける著者ならではの臨場感あふれる描写が多く、専門的な内容も興味深く読むことができます。2019年の出版時点でパンデミックの発生を断言している本書は、私たちに多くのことを教えてくれます。
天然痘は人類が根絶に成功した唯一の感染症。1798年にジェンナーが牛痘種痘を発表すると、この予防法は瞬く間に世界に伝わりましたが、鎖国中の日本では導入まで約50年の歳月がかかりました。種痘を日本に広めるために苦闘したのは蘭方医たちでした。彼らの多くは下級武士や百姓の出自を持ち、身分が定められた時代に出世する手段が蘭方医になることでした。医学や語学の習得のため、藩を超えて形成された蘭方医のネットワークは、やがて種痘の導入へと世の中を動かしていきます。
人類の歴史上、幾度もの流行を見せたペスト(黒死病)。本書では3千万人近くの死者を出したヨーロッパ中世の流行にスポットを当てます。 当時は医学がまだまだ未熟な時代でした。医者達でさえ、ペストの原因は大気の腐敗や占星術的なものと考えていました。病への恐怖が差別、隔離、そして民族の迫害へと人々を駆り立てていきます。 ペスト流行によって変容する社会、それがやがて中世の崩壊を招きます。
数十年間隔で流行した江戸時代の麻疹。人々は玉石混交の町医者や巷に飛び交う禁忌情報と怪しげなまじないに右往左往させられます。 禁忌の対象となった食べ物を扱う店、芝居小屋などは商売がなりたたなくなる一方、麻疹に良いとされる食べ物を扱う店は、幕府の禁令をものともせずに便乗値上げを行うことで、経済の混乱を招きます。 麻疹を題材にした戯作、浮世絵などを通し、麻疹と共生する江戸の人々の暮らしが描き出されています。