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『生きている兵隊』 (伏字復元版)
石川達三/著 中央公論社 1999年
昭和12年、日中戦争に従軍した石川達三のルポルタージュである。戦場では民間人も兵士も区別はされず、人の命と尊厳があまりに軽々しく踏みにじられていく。石川が"創作"とした本作だが、感傷を排して描かれた兵士の姿は生々しく、戦争の非人間性を浮き彫りにしている。昭和13年に出版され即日発売禁止となったその経緯は、半藤一利の解説に詳しい。
『戦争の悲しみ』 『世界文学全集』T−06所収
バオ・ニン著 井川一久訳 河出書房新社 2008年
主人公のキエンは、ハノイの高校を卒業後、ヴェトナム人民軍に入隊し、サイゴン攻略まで各地の戦闘に参加しながらも生き延びる。戦後作家となって異常な戦時体験を書き残すことで正気を保ち、生きる意味を見出す。実際にそこにいなければ描けない激戦地の惨状、恋人フォンとの別れ、遺骨収集隊のエピソードなど、悲しみを刻み込んだ描写は、勝者にも深い傷を残すことを切々と訴え、人間性への問いかけとなって響く。
『大地の子』 上・中・下巻
山崎豊子/著 文藝春秋 1991年
強い意志と忍耐で運命を切り開いていった戦争孤児、陸一心の物語。昭和10年代に家族と満州に渡った、または現地で生まれた開拓団の子どもたちの多くは、終戦とともに置き去りにされ、中国人養父母に育てられた。そのまま国交が断絶されたため、故郷も、自分が日本人であることも忘れていった。
いつの世も戦争によって犠牲になるのは弱者である。著者は、孤児たちの悲しみを受け止め、この作品を書き上げた。今年は日中国交正常化から50年の節目を迎えた今、多くの人に読んで欲しい作品である。