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『それでも三月は、また』
谷川俊太郎 他/著 講談社 2012年
東日本大震災をモチーフにした詩2編と短編小説15篇からなる、詩人や作家たちによるアンソロジー。被災地が舞台のもの、近未来のディストピア、ファンタジー仕立てなど、設定は作品によって様々だが、共通するのは、「喪失」と「希望」が描かれていることである。重松清の作品では、主人公が小学校時代に考えた「おまじない」に、池澤夏樹の作品では、「美しい祖母の聖書」が海の底に沈んでいるという思いの中に、希望が託されている。
『デカメロン・プロジェクト〜パンデミックから生まれた29の物語』
ニューヨーク・タイムズ・マガジン/編 河出書房新社 2021年
人類が初めて知るウイルスに対して文学に何ができるかと考えた編集者が、世界中の作家に連絡し、寄稿された短編を集めた作品集である。ボッカッチョによる『デカメロン』は14世紀にペストが大流行したさなかに書かれたものだが、本書はこれに着想を得て企画された。コロナ禍の生活はこれまでとは違ったものになってしまった。しかし、共通して描かれているのはその日常をどう生きるかである。それぞれの作家が描く、コロナ禍でなければ描けなかった物語。
『マスク〜スペイン風邪をめぐる小説集』
菊池寛/編 文藝春秋社 文春文庫 2020年
文豪の菊池寛は写真で見る恰幅がよいイメージとは違い、心臓が弱く、病弱だったようである。スペイン風邪の流行を恐れ、外出の際にはマスクをし、帰宅すると丁寧にうがいをしていた。ところが、感染が下火になり、いったんマスクを外してみると、再度の流行にもかかわらず、マスクが疎ましく思えてしまう。立場が変わると考えも変わってしまう様子は、現代人と変わらないことがうかがえる。表題作のほか、スペイン風邪を題材にした短編が、8編収録されている。