伝承物語の再話
サトクリフは歴史小説のほかに、ロビンフッド物語、アーサー王伝説、ベーオウルフ、トリスタンとイズー、ケルト神話、ギリシア神話など、伝承の再話を多く手がけています。いずれも彼女独特の大胆なアレンジが加えられており、緻密な心情描写により、伝説上の人物が生き生きと魅力的に描かれています。
『オデュッセウスの冒険 ギリシア神話の物語(下)』
山本史郎訳 原書房 2001年
ホメロスの一大叙事詩「オデュッセイア」。トロイア戦争の後、故郷に向かう途中で海神ポセイドンの怒りをかい、英雄オデュッセウスは何年も海をさまよう。魔女キルケ、誘惑の歌声セイレン、清らかな王女ナウシカなど、その波乱万丈の冒険譚がサトクリフの巧みな語り口で蘇る。
『トロイアの黒い船団 ギリシア神話の物語(上)』は、おなじくホメロスによる「イーリアス」の再話。ギリシア軍とトロイアとの長い戦いと猛々しい英雄たちが、アラン・リーによる美しいイラストと共に描かれている。
● アーサー王伝説 ●
『アーサー王と円卓の騎士』
山本史郎訳 原書房 2001年
魔術師マーリンの登場からはじまり、アーサー王が誕生。やがて円卓の騎士が揃い、宮廷は最盛期を迎えていく。トリスタンとイズーの挿話が、ランスロットとグィネヴィア妃の鏡像として巧みに使われ、悲劇の愛をきわだたせる。伝説の王が、サトクリフの手で人間性豊かな英雄として、生き生きと描かれる。
『アーサー王と聖杯の物語』
山本史郎訳 原書房 2001年
聖杯を探す若き世代の冒険。ともすれば、無欠で面白みがないようにも見えるガラハットに、サトクリフは、絶えず他の世界に心を彷徨わせるものという性格付けをした。若い世代の台頭の中で、自信を失って迷いに陥るランスロットの姿が印象的な物語。
『アーサー王最後の戦い』
山本史郎訳 原書房 2001年
アーサー王の罪の子モルドレッドによる陰謀の末に、最後の戦いが始まった。王妃を救うために突き進むランスロットと、彼に弟を殺され、復讐に燃えるガウェイン。妃とランスロットを共に愛するアーサーの苦悩と老いの姿。悲劇のクライマックスの中、伝説の物語は終焉を迎える。