浦安市立図書館

映画作品の紹介

   黒澤明監督の代表作品を、図書館員が実際に見て紹介しています。 娯楽性と芸術性の融合を見事に映像化した黒澤作品、この機会にぜひご覧下さい。
  また10月には、図書館で主催する「名作映画鑑賞会」にて「黒澤明生誕100年 初期と後期の作品を見る」特集を上映予定です。 詳細は、館内のチラシ及び図書館HPなどで告知させていただきます。

『野良犬』

主演 三船敏郎 志村喬  1949年 新東宝・映画芸術協会

   刑事の拳銃が奪われるという事件が起きた。そして恐れていた拳銃を使った強盗傷害殺人事件が起きてしまう。ベテラン刑事佐藤と新米刑事の村上は犯人を追いつめていく。二人の息詰る攻防が、当時のレビュー劇場、スラム街、闇市など戦後の町並みや風俗とその中で生きている登場人物と共にいきいきと描かれている。善悪対比といえる構図がとられ、混乱と狂気が入り混じった社会を丁寧に描いており黒澤明が初めて娯楽作品として取り組んだ作品である。数多く登場する刑事ドラマのハシリとも評され、犯罪捜査の流れに沿ったストーリーは観客をあきさせない。

『羅生門』

主演 三船敏郎 京マチ子 1950年  大映株式会社

   夕立に煙る羅生門の前で、雨宿りをしていた杣売と旅法師の男が、不可解な事件について語り合っていた。多襄丸という男と、その男に森で襲われた夫婦の事件について、証言がそれぞれ食い違っているというのだ。殺人の真相はまさに藪の中となり、人間のエゴで満ちた証言だけが残った。原作は、芥川龍之介の「羅生門」と「藪の中」を橋本忍と黒澤明の手によって、巧みな脚本で構成している。ベネチア国際映画祭グランプリ、アカデミー賞最優秀外国映画賞を受賞し、黒澤作品が世界に認められた最初の一作となった。

『生きる』

主演 志村喬 小田切みき 1952年  東宝株式会社

   勤続30年の市役所の市民課長渡辺勘治は、当時、死病といわれる胃癌で突然死の宣告を受ける。死に直面してはじめて自分の人生を振りかえり、これまで死ぬほどの退屈さをかみ殺してきたこと、事なかれ主義で、書類の印を機械的に押していたことに気づく。彼はいくばくもない生命の限りに生きたいという気持ちに燃え、かつて、陳情にも無関心でいた児童公園建設に最後の命をかける。黒澤は「人間の誇りと尊厳」を主人公の生き方を通して描いた。『羅生門』『白痴』に続く人間愛をテーマにして作られた三部作の一つ。

 

『七人の侍』

主演 志村喬 三船敏郎 木村功1954年 東宝株式会社

   時は戦国時代、収穫時期になると村は野武士たちに襲われる。百姓たちは飢えた浪人たちを食餌で雇い対抗する。落ち武者を殺して奪った刀や鎧を与られた七人の侍と、夜盗と化した野武士集団の戦いを描いた、長編アクション時代劇。黒澤映画の代表作である。日本映画史上はもちろん、71日間の撮影予定が丸一年経っても終了しない状況に、時の東宝上層部から撮影中止命令が出されたほどで、黒澤が寸分の妥協も許さなかった作品だったと言われている。剣道経験の全くない素人を映画の中で鬼気迫る剣豪に仕立てあげる演出力と作品中の俳優や素人の使い方の上手さは、“黒澤マジック”たる所以である。

『隠し砦の三悪人』

主演 三船敏郎 上原美佐 1958年  東宝株式会社

   戦国の乱世、戦いに敗れた秋月家の侍大将、真壁六郎太は、世継ぎの雪姫を擁して隠し砦にこもる。六郎太はお家再興のため、途中出会った百姓の太平と又七を巻き込みながら、軍資金とともに脱出する奇策に満ちた敵中突破作戦を開始する。不平不満を言いながらも黄金を手に入れるために同行する太平と又七のユーモラスなやりとりや、黒澤に見出されてデビューした雪姫役の上原美佐の美しさも見所の、痛快娯楽時代劇。ジョージ・ルーカスはこの作品から「スター・ウォーズ」のアイディアを得たといわれている。

『用心棒』

主演 三船敏郎 仲代達矢 1961年 東宝株式会社

   上州赤城山が雪を頂く頃、荒涼とした宿場町にひとりの浪人が現れる。桑畑三十郎と名乗る、すご腕のその男は、対立する二つの組織の夫々に用心棒をかって出、組織の対立を利用して町を一掃すると、何処へともなく去っていく。計略が失敗し、窮地に追い込まれた主人公が再び立ち上がり、勝利を勝ち取る痛快なストーリーが魅力。望遠レンズを多用したカメラワーク、時代劇らしからぬ現代的な音楽なども評価され、海外にも影響を与え、「荒野の用心棒」(監督セルジオ・レオーネ)他の翻案も製作された。三船はこの演技でヴェネチア国際映画祭男優賞・ブルーリボン男優賞を受賞した。

『椿三十郎』

主演 三船敏郎 仲代達矢 1962年 東宝株式会社

   正義感に燃える血気盛んな青年藩士9名が、悪徳家臣の不正を正すために密談をしているところから映画は始まる。今にも飛び出さんばかりの若者たちの前に、刀を一本だけ差した浪人が現れ、「危なっかしくて、見ちゃいられねぇ」と加勢を約束する。その姿は、まるで出来の悪い子どもたちを指導する教師のようでもある。しかし、三船敏郎演じる浪人はあくまで土臭く、入江たか子演じる睦田夫人をはじめ、彼に助けられた人達はどこまでも品が良い。そのやり取りに可笑しさが見られるが、睦田夫人の言葉通り、浪人は最後に皆の前から姿を消す。最後の場面での仲代達矢との決闘は、日本映画史に残る名シーンと言われている。

『赤ひげ』

主演 三船敏郎 加山雄三 1965年 東宝株式会社

   出世を夢見て長崎に遊学した保本登は、江戸に戻るなり、赤ひげの新出法定に小石川養生所の勤務を命じられる。保本にとって、貧乏臭漂う養生所勤めは不満でしかないが、座敷牢にいる美しい狂女に襲われた経験から、身をもって赤ひげの診断の正しさを知る。赤ひげを頼ってくる貧しい人々との関わりの中で、保本は人間として、医師として真に大事なことに気付いていく。赤ひげと共にこの養生所で医術に一生を捧げる事を誓うのだった。原作は山本周五郎『赤ひげ診療譚』。ヴェネチア国際映画祭サン・ジョルジュ賞受賞。

『まあだだよ』

主演 松村達雄 香川京子 1993年 東宝株式会社

   黒澤明監督の遺作となった最後の作品。映像しにくいといわれている作家、内田百聞の随筆を原案に、戦前戦後にかけての百聞の日常と彼の教師時代の教え子との交流を描いている。それまでの黒澤明作品に見られる戦闘、アクションシーンはなく、終始穏やかなトーンで話が進行するなかで主人公のやさしさや正義感が浮かび上がってくる。黒澤は面白いものを作ろうという意識を棄て、これまでの黒澤作品をぶち壊そうと撮り方もアングルもニュースを撮るように自然に撮ろうと試みたという。カンヌ映画祭出品作。

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