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作品論・映画論

  日本映画に多大な影響を与えた黒澤作品を、様々な評論家や作家たちが、その魅力を解説している本を紹介します。日本のみならず、世界の映像作家たちに影響を与えた、黒澤作品論を読むと、映画がいっそう面白くなります。 
画像:『黒澤明vs.ハリウッド』

『黒澤明vs.ハリウッド』

田草川弘/著  文芸春秋  2006年

  日米合作の戦争映画『トラ・トラ・トラ!』(1970年作品)は、黒澤映画の代表作のひとつとなるはずであった。この映画はアメリカ側、日本側双方の場面を別個に撮影して組み合わせる方針で、当初の日本側監督として白羽の矢が立ったのが黒澤明だった。黒澤はハリウッドと組んで大作を撮ることに野心を持ち、念入りに準備を整えて撮影に入るが、撮影開始から1ヶ月で監督を降板してしまう。米国と日本の映画に対する根本的な考え方の相違が、黒澤降板の大きな理由とされるが、未だに幾多の理由とともに謎の降板劇として物議を醸している。監督降板後、黒澤は山本周五郎原作の『どですかでん』を、いつもの黒澤組スタッフで撮るが、『トラ・トラ・トラ!』とは内容も予算も対照的で、これまでの黒澤映画とは一線を画すような作品となって不評に終り、その後自殺未遂まで起こしてしまう。黒澤降板の真実と日米の映画に対する考え方の違いに克明に迫る一冊である。

画像:『黒澤明と『生きる』

『黒澤明と「生きる」』

都築政昭/著 朝日ソノラマ 2003年

   黒澤明に関する著書を数多く著している元NHK製作スタッフの都築政昭が「生きる」の製作過程の秘話やエピソードを、出演者・スタッフの貴重なインタビューと黒澤研究会の資料を元に再現したドキュメント。 映画には観る者を元気づけ行動に駆り立てる力がある。どんなに娯楽映画作品でも人間がいかに生きるかを表現する使命があると黒澤は考えてきた。前作「白痴」では酷評されたが、前々作の「羅生門」がベネチア映画際グランプリを受賞したため凱旋監督となり、東宝二十周年記念作品の監督として迎えられ作られたのが「生きる」である。今も多くの人の心に残る代表作がいかにして生まれたかを知ることができる。

画像:『黒澤明という時代』 

『黒澤明という時代』

小林信彦/著 文藝春秋 2009年

   黒澤明の全作品をその公開時にリアルタイムで観つづけてきた作家、小林信彦が時代と格闘してきた映画作家の栄光と挫折、喜びと苦悩を書いたものである。自分が見た映画以外のことは書かない。巷説、噂のたぐい、不明なことは一切、排することなどをルールとし、「姿三四郎」から「まあだだよ」までの30作品を作家の視点で鋭く分析。戦後から高度成長期までが黒澤明という名の象徴する時代であった。その時代とともに黒澤明の名前が巨大になりすぎ、最終章では絵画的で静的な世界に沈んでいったという作家ならではの見かたがおもしろい。

画像:『何が映画か「七人の侍」と「まあだだよ」をめぐって』

『何が映画か 「七人の侍」と「まあだだよ」をめぐって』

黒澤明・宮崎駿/著 徳間書店 1993年

   最近のヒット映画で、CGの使われていないものは皆無に等しいのではないだろうか。CG技術は当たり前、それどころか3D映画も次々と公開されている。そんな風潮の中、本書に出てくる「まあだだよ」の坂道や戦後の焼け跡を作った話、薬箪笥のエピソード等はとても新鮮に感じられる。本書は、ずばり「黒澤映画のレシピ」本だ。宮崎駿との対談からは、黒澤明の「シャシン」に対する猛烈なこだわりや深い愛情が溢れ出している。「クロサワ映画を実は見たことがない…」という人にぜひ読んでもらいたい一冊である。そして、撮影秘話や苦労話も満載の本書は、既に映画を観た事のある人にもお薦めだ。もう一度映画が観たくなるはず。

画像:『黒澤明、宮崎駿、北野武 〜日本の三人の演出家』

『黒澤明、宮崎駿、北野武   日本の三人の演出家』

渋谷陽一構成 ロッキング・オン 1993年

   今、世界で日本人の監督といえば、この三人が間違いなくあげられるだろう。作品自体は異なる世界観なのに、三人の監督たちの独創性と、柔軟な姿勢や貪欲さは意外なほど共通している。 ロッキング・オン編集者の渋谷陽一が、映画専門家でないインタビュアーならではの質問を投げかけ、それらの質問に丁寧に対応する晩年の黒澤監督の答えが興味深い。マドンナの映画を見て面白がり、また北野武映画を褒め、自分は「女性の描き方」が上手いほうではないと認める場面等もあり、映画関係者ではないインタビュアーならではの切り口が、とても新鮮に感じられる。雑誌「CUT」で掲載しなかったインタビューも再編編集し、世界に通用するクリエイター達の本質に迫る。

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