関東大震災
『大正大震災』
尾原宏之/著 白水社 2012年
約10万人の死者・行方不明者をもたらして史上最悪の自然災害となった関東大震災。震災被害救済、復興活動に軍隊が貢献したことにより、多くの国民の軍隊に対する見方を好意的にさせ、それが結果的に軍国主義の台頭へとつながり、昭和20年の敗戦を迎えることになる・・。本書では、明治・大正・昭和という歴史の流れの中で、「大地震」がもたらした一般国民の態度の変化を明らかにし、「大地震」をその後の日本の歩みを決定づける思想史的事件として捉え直すべきだと提唱する。当時の日本人はなぜこの大地震を「大正大震災」と呼んだのか。この問いかけによってもうひとつの大正と昭和の歴史を浮き彫りにする一冊。
『絵本子どもたちの日本史3 明治・大正の子どものくらし』
加藤理/文 石井勉/絵 大月書店 2012年
大阪に住む小学6年生の上田一夫くんの目を通して、関東大震災が起きたころの大正時代の子どもたちの暮らしを描く。小学校での図工・音楽・綴り方などの授業、遠足や運動会など学校の行事、試験や将来の夢、日曜日の過ごし方−デパートやお芝居、動物園・活動写真(映画)・日曜学校に行く等−、読んでいる本や本の読み方、さかなとり・まり投げ・かくれんぼ・おにごっこなど友達とのいろいろな遊び、いとこの病気療養、家で食べるおやつ、お節句・祝日など年中行事の祝い方。水彩画を思わせる淡いタッチの絵と、絵に添えられた短い文章が親しみやすい。ところどころルビがふってあり、小学生が手に取って読むこともできる。
『関東大震災を歩く 現代に生きる災害の記憶』
武村雅之/著 吉川弘文館 2012年
東京都江東区の浄心寺に「蔵魄塔(ぞうはくとう)」という、関東大震災で亡くなった人々のための慰霊碑がある。悲しみにくれる裸婦が半球ドーム型に表現された魂に寄り添って泣いているこの彫刻からは、震災の悲惨さ、むごさなど一言では言い表せないものがある。1923年に起こった未曾有の災害・関東大震災は日本の首都である東京にも最悪の被害をもたらし、その爪痕は、このような慰霊碑や記念物、復興のモニュメントとして残り、今もひっそりと佇んでいる。本書では、東京各地のこのような慰霊碑とそれらにまつわる人々のエピソードを添えて紹介している。祖先が残してくれた歴史を辿ることにより、来るべき大震災から身を守る第一歩となるだろう。
『看板建築』
藤森照信/文 増田彰久/写真 三省堂 1988年
「看板建築」は建築史家の藤森照信氏が「発見」し、命名した建築様式だ。関東大震災後から戦後にかけて建てられた店舗兼用住宅に用いられた建物である。外観は木造を防火のためモルタルや銅板で覆い、正面には庇がない平面な造り、内部は和風の擬洋風建築だ。昭和50年代まで当たり前すぎて見過ごされてきた建築である。浦安市内にも少し前まで影響を受けた建物がいくつかあった。この建物様式ができたきっかけが関東大震災だった。関東大震災直後、東京の街はバラック建てで復興が始まった。一区切りがつき、本格的な再建が始まったときに庶民が建てた店舗兼用住宅がどうして「看板建築」になったのか、この本は解明してくれる。
『正午二分前』
ノエル・F.ブッシュ/著 早川書房 2005年
関東大震災を記録した書物は数多くあるが、ルポルタージュ、それも国際ジャーナリストによるレポートという点で、本書は類い稀なる記録となっている。地震に耐えた新築の帝国ホテルの支配人、犬丸徹三の冷静な判断と行動。東京下町に住む医師の体験。地震時に横浜港で所有する船の修理をしていた青年は、何百人もの怪我人を岸から港内に碇泊していた大型の船舶に運び、見事な救助作業を行った。著者は大震災を体験した各界各層にわたる人物の「その日」を生き生きと再現すると同時に、関東大震災という未曽有の大災害の国際的、歴史的位置づけを描いた。
『東京震災記』
田山花袋/著 河出書房新社 2011年
田山花袋は、関東大震災をどう見てどういう思いを持ったのか。花袋は大正12年9月1日、東京郊外の自宅で家族と昼食中に大地震に見舞われた。危険を感じ家から飛び出して家族は皆無事であったが、家の中は、襖が外れかけ壁が至る所で落ち、本棚が倒れ洋書が床に散らばる有様であった。そして凄まじい雲と煙が立ち上るのを見て、壊滅状態となった都心に向かう―作家として、その光景、感じや気持ちを描写して書き残すため。本書は、文庫本として2011年8月に再刊行された。巻末には、ノンフィクション作家の石井光太氏による解説「大震災における作家のあり方」もあり、東日本大震災からの復興について考える助けともなる一冊である。