ひとかどの父へ
深沢潮/著 朝日新聞出版 2015
一人で働き続ける母の自慢の子どもでありたかった。父にいつか会えた時に、誇りに思ってもらえる娘であろうと努力してきた。しかし思いがけない事件から、父親が韓国人だった事を知る主人公の朋子。自分の中の差別意識と、支配的だった母への反発、また父への想いに悩みながら、父を探そうと朋子は決意します。それは、自分自身と向き合うことだと気がつくのでした。
父の詫び状
向田邦子/著 文春文庫 2005
仕事人間で、妻子には口うるさく怒鳴り、時には手をあげる―そんな「昭和の父親」が、家に招いた部下の吐瀉物を片付けた娘に宛てた詫び状とは。 自身の父親の姿、家族の日常を、「向田邦子は突然あらわれてほとんど名人である」と評された端正な筆致が描き出します。 昭和を代表する脚本家の文壇デビュー作であり、傑作と名高いエッセイ集。一見バラバラに見えるエピソードが、鮮やかに集束する構成が見事。(初出1978年)
長いお別れ
中島京子/著 文藝春秋 2015
あれほど歩いて通った自分の家への帰り道を忘れ、家族の顔を忘れ、入れ歯をどこかでなくし、薬は飲みたくないと子どものように駄々をこねて家族を振り回す父。最初は静かな異変に過ぎなかったのに、その不安は徐々に家族の間に大きな不安の輪郭を現します。 記憶をなくしてゆっくり遠ざかっていく父と、その家族の10年の長い別れの月日を描いた物語です。
お父さんのバックドロップ
中島らも/著 集英社文庫 1993
下田くんのお父さんが悪役プロレスラーの牛之助だなんてビックリ!でも下田くんは、プロレスは八百長だから嫌いみたい。「尊敬できない」って、お父さんに言っちゃったんだ。そしたらお父さんは、若くて世界一強い空手家に勝負を挑んだ!試合当日、テレビを見ていたぼくと下田くんは、居ても立ってもいられなくなって…。 落語家、ロックンローラーなど、さまざまなお父さんたちの姿をユーモラスに描いた短編集。(初出1989年:学習研究社)
月の砂漠をさばさばと
北村薫/著 新潮文庫 2002
小学3年生のさきちゃんは、おかあさんと二人暮らしです。おかあさんのお仕事は「お話を書く人」です。寝るときに楽しいおはなしをしてくれたり、音痴だけど変な歌詞を作って歌ったり、さきちゃんの隣の席の子と交換日記のようなことをしたり…。もちろん、さきちゃんのお話も聞いてくれます。 ミステリー小説の名手・北村薫が、親子でありながら同士のようでもある母娘の日常を、ほのぼのと、時に切なく綴る12編。(初出1999年)
朝が来る
辻村深月/著 文藝春秋 2015
一人息子の朝斗が6歳の誕生日を迎え、幸せな毎日を送っている栗原家でしたが、朝斗の母、佐都子は、近頃頻繁にかかってくる無言電話が気になっていました。そしてその日は、いつもと違い応答が…「子どもを、返してほしいんです」。それは、朝斗の出生の秘密を知る女性からの電話でした。 子どもを育てることができなかった母と、子どもを産めなかった母、2人の母親のそれぞれの葛藤を描きながら、本当の家族とは何かを問いかけます。
猛スピードで母は
長嶋有/著 文春文庫 2005
両親が離婚して、母と二人で祖父母のいる北海道に引っ越した小学校高学年の慎。女手一つで息子を育てる男勝りな母親との生活の中で、祖父母の前で娘として振る舞う姿や職場での顔、恋人の前で見せる女性らしい一面など、新たな母を知ることに。母の言動を淡々と受け止めているかのような慎ですが、母を思う彼の気持ちが確かに感じられ、胸を打ちます。 第126回芥川賞受賞作。同収録の「サイドカーに犬」も、大人を見つめる子どもの目線が印象的。(初出2002年)
流れる星は生きている
藤原てい/著 偕成社文庫 2015
昭和20年8月の満州、観象台官舎で暮らしていた作者は、急な引き揚げを余儀なくされました。夫とは引き離され、たったひとりで3人の幼い子の命を守らなくてはなりません。 満州から朝鮮半島を通り、日本へと向かう帰路は凄惨を極めます。 「母は強し」という言葉では言い尽くせない、強い意志と覚悟が、最後のページを読み終わったときに激しく胸を打ち、現代に生きる私たちに強いメッセージを残すルポルタージュです。(初出1949年:日比谷出版社)