きもの
幸田文/著 新潮文庫 1996
四人兄弟の末娘のるつ子は、着物の着心地に人一倍のこだわりを持つ少女でした。その姿は、母や姉たちには、わがままや滑稽に映りますが、祖母だけは良き理解者となります。 姉の嫁入り、母の死、関東大震災…癇の強い、しかし思いやりの心を持つるつ子が、少女から大人になる過程で、美しく華やかなものから悲しい気持ちになるものまで、さまざまな着物にであいます。るつ子は祖母から、「きもの」を通し、大人としての振舞いや、心の持ちようなどを学ぶのでした。(初出1993年)
スクラップ・アンド・ビルド
羽田圭介/著 文藝春秋 2015
5年間務めたカーディーラーを辞め、現在無職で就職活動中の健斗。ともに暮らす要介護の祖父は、口癖のように「死にたい」とこぼします。健斗は、過剰介護で祖父の身体機能を衰えさせ、穏やかな死を迎えさせようと計画しますが…。 介護という重いテーマを扱いつつも、祖父の傍らで過ごすうちに自らの若さと可能性に気づき、自分を再構築していく健斗の心情が描かれ、希望をも感じさせます。 2015年上期芥川賞受賞作。
手のひらの京
綿谷りさ/著 新潮社 2016
京都、五山の送り火がすぐ近くに見える距離に、家族5人で住む奥沢家。長女の綾香は結婚のタイムリミットに焦る31歳。一方、恋愛に不自由したことのない次女の羽依(うい)は、先輩女子社員から“いけず”をされてうんざりしている。末っ子の凛はバイオテクノロジーを研究する大学院生で、就職を機に東京へ上京しようと考えるが、家族の反対にあってしまう。 三姉妹の日常と旅立ちが、京都出身の作者がいつか舞台にしたかったという京都の風景の中、丁寧に描かれます。
ゆれる
西川美和/著 ポプラ文庫 2008
閉鎖的な田舎を嫌い、東京に出てカメラマンとして成功した弟・猛(たける)と、家業のガソリンスタンドを継いで暮らす兄・稔(みのる)。母の一周忌で久々に実家に帰ってきた猛でしたが、幼なじみの智恵子と兄と3人で出かけた先で智恵子が亡くなります。対照的な兄弟は、事件を機に、胸底に眠らせていた怒り、甘え、見下しなどの歪な感情に溢れ、関係が狂っていきます。映画監督・西川美和による映画のノベライズ作品です。(初出2006年)
女系家族
山崎豊子/著 新潮文庫 2002
大阪の老舗木綿問屋「矢島商店」は、代々家付き娘が婿養子をとる女系の家筋。社長の嘉蔵が死去し、その遺言によって愛人・文乃の存在が明るみに出ます。嘉蔵の娘である長女藤代、次女の千寿、三女の雛子、さらに彼女たちの叔母や大番頭の宇市、藤代の踊りの師匠らの欲望が絡まりあい、莫大な遺産相続を巡る凄絶な争いが繰り広げられます。家族だからこそ許せない。腹の探り合いをする女たちの、大阪の商家ならではの関西弁も印象的な、山崎豊子の代表作。(初出1963年:文藝春秋)
流しのしたの骨
江國香織/著 新潮文庫 1999
夜の散歩が趣味で今はなにもしていない主人公・宮坂こと子、おっとりした長姉そよちゃん、変わり者だけど優しい次姉しま子ちゃん、‘小さな弟’律の四人兄弟と、生活に様々なこだわりを持つ母、家族想いの父。個性的な家族の平凡な日常を描いた物語です。 食後に家族みんなでお茶をしたり、買い出しに行きシューマイを作ったり…穏やかな時間の流れと、ありふれた日常を家族とともに過ごす幸せを身近に感じられ、温かな気持ちになれる一冊。(初出1996年:マガジンハウス)