西アジア、アフリカ、中東地域は、民族、人種、宗教など、複雑な問題を抱え、紛争で苦しんでいる国が少なくありません。不安定な国情のため、アメリカやヨーロッパに活躍の場を移している作家も多く、移住先の様々な言語で作品を発表しています。図書館の文学の棚は、書かれた言語で分類し並べているため、普段は別々のコーナーに分かれてしまっていますが、今回は国ごとに集めてご紹介します。言語も多様ですが、主要なものを集めました。
千一夜物語 ガラン版(全6冊)
西尾哲夫/訳 岩波書店 2019年〜2020年
アラビアに古くから伝わる物語集を、18世紀にフランスの東洋学者ガランは「千一夜」(仏語)と訳しました。それは世界中に広まり、英語圏では「アラビアンナイト」、日本では「千夜一夜物語」などとも呼ばれています。王妃に裏切られて以来、妻を一夜で殺してしまう王の元に自ら嫁いだ宰相の娘シェヘラザード。毎晩おもしろい物語を聞かせては途中で止めてしまいます。続きが気になって仕方がない王は、一日また一日と処刑を遅らせていくのでした。
ハイファに戻って/太陽の男たち
G・カナファーニー/著 奴田原睦明/訳 河出書房新社 2017年
祖国とは何でしょうか。国を追われた人の文学とはどのようなものでしょうか。著者の故郷はパレスチナで、解放運動に尽力して1972年に36歳で爆殺されました。本書はパレスチナ問題を背景とした短編集。表題作「ハイファに戻って」は、今や別人の家となった自宅に20年ぶりに戻った夫婦が、爆撃から逃げる混乱の中で置いてきてしまった赤子と漸く再会できたものの、新たな悲劇に見舞われる物語です。文庫版は西加奈子氏の解説付。
妖怪(ゴースト)の森の狩人
エイモス・チュツオーラ/著 樋口裕一/訳 トレヴィル 1993年
ナイジェリア出身のチュツオーラは、ヨルバ人の伝承に基づく小説を英語で発表しました。その幻想的な作風はマジックリアリズムと呼ばれ、国際的に高く評価されています。本書は、狩人となった若者が、父親の死後、危険な妖怪の森に迷い込んでしまう物語。邪悪だが憎めないところもある妖怪たちに悪戦苦闘しながら、故郷への帰り道を求めて出会いと別れを繰り返しながら放浪し、ついには地獄や天国にまで足を踏み入れます。
ジャンプ 他十一篇
ナディン・ゴーディマ/作 柳沢由実子/訳 岩波書店 2014年
国外に移住する作家が多い中、南アフリカで白人の立場からアパルトヘイト反対を貫いたナディン・ゴーディマ。1991年にはアフリカ女性として初のノーベル文学賞を受賞し、講演のために来日も果たしています。本書はアパルトヘイト撤廃決定後に刊行された短編集で、様々な人種、立場の南アフリカ国民が登場します。「ジャンプ」では、右翼の若者が、良心に従って黒人政府に投降したものの、複雑な心境を持つ姿が描かれています。
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