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熊楠という人

既成の学問の枠におさまりきれない独自の“南方学”という学問的宇宙をつくり上げた博物学の巨人、南方熊楠の生涯は多彩で波乱万丈をきわめている。少年時代は神童と呼ばれ19歳で渡米。苦学しながら世界を渡り、その語学力と博識をもって大英博物館から研究を依頼される。帰国後は和歌山県の田辺に居を構え粘菌研究に打ち込む。日本人離れしたスケールと、どのような権威や常識にもとらわれない型破りの言行は奇人と呼ばれるが、自然保護活動に打ち込むやさしい人であった。

『南方熊楠の生涯』

仁科悟朗/著 新人物住来社

博物学者、民俗学者として知られる南方熊楠。彼と同郷の著者は、熊楠が世間で広く認知される以前からその人柄に魅せられ、長年にわたる調査を続け、さらに数十年の歳月をかけて本書をまとめた。明治維新という時代の変動のなかに生まれ、独学で大学者となった彼の一生を、故郷和歌山との深い関わりを中心に、この巨人を生み出した時代背景、神社合祀による自然破壊への反対運動における地縁血縁関係を詳細に紹介している。

画像:南方熊楠の生涯

『南方熊楠のコスモロジー』鶴見和子曼荼羅5

鶴見和子/著 藤原書店

国際的社会学者として著名な鶴見和子氏の著作を、再編成した作品集の中の一作。本書は、熊楠に関連した著作をまとめたもので、柳田国男と南方熊楠の対峙が随所にみられる。熊楠の混沌とした思想を、新しいものへの予見と創造性豊かなものとすることで、彼の業績や人物像をわかりやすく知ることができるだろう。巻末には、安野光雅、山田宗睦との対談や河合隼雄、山折哲雄ほかとの座談会も収録している。

画像:南方熊楠のコスモロジー

『クニオとクマグス』

米山俊直/著 河出書房新社

「クニオとクマグス」、柳田國男と南方熊楠は、明治の夜明けとともに生まれ、日本民俗学の基礎を作り上げた。本書は、南方が自己について書いた「履歴書」と柳田の「故郷七十年」を原点にし、また著者自らが彼らに関わる土地を実際に訪れ書いた鏤骨の作である。「巨人」と「天才」と言われるまでの彼らの生い立ち、二人の交流から民俗学の誕生、そして彼らの残した遺産をこれからどう受け継いでいくべきかを考えてみたい。

画像:クニオとクマグス

『森のバロック』

中沢新一/著 せりか書房

南方の著書は、多くの人にとって難解である。本書では、『南方熊楠コレクション』(河出書房新社)を編集した著者が、南方の一生を丹念に切り取り、その実績について多くの資料を用いて解説してくれる。南方が説く民俗学・生物学・仏教・森などについて、一つでも興味があるなら本書の各章を読んでみるといい。彼の巨大な知の宝庫を理解する一助となるだろう。着想から完成まで十年という時間を要した本書は、第44回読売文学賞評論・伝記賞を受賞した。

画像:森のバロック

『南方熊楠 梟のごとく黙坐しおる』

飯倉照平/著 ミネルヴァ書房

飯倉氏は、和歌山県田辺市の南方熊楠特別賞を受賞している、南方研究の第一人者である。 本書は定評のあるミネルヴァ日本評伝選のシリーズからでた著者の最新作であり、熊楠の生い立ちから、アメリカ時代、イギリス時代、帰国後の熊野での活動、神社合祀反対運動と、その生涯に沿って、確かな典拠を示しながら客観的に論じており、著者の膨大な研究成果・知識量にはうならせられる。 巻末には人名索引、事項索引、略年譜がある。

画像:南方熊楠 梟のごとく黙坐しおる

『巨人伝』

津本陽/著 文藝春秋

巨人・南方熊楠の一生を描く長編伝記小説。彼の並外れた記憶力、探求心、勉学への熱意はどのエピソードからも伺える。兄弟・家族、イギリス在留時代の友人との交流、そして生涯決して絶えることのなかったさまざまな学問への情熱が、史実を交えて紹介されている。彼の一生を生き生きと描き、奔放に生きながら孤独な一面もある彼が、なぜ巨人と言われるのか、この小説から確かに理解できるだろう。

画像:巨人伝

『縛られた巨人』

神坂次郎/著 新潮社

おびただしい数の論文や日記、記録などを元に、民俗学者・博物学者として知られる南方熊楠の生涯を辿る。大変な博識であったことで知られる熊楠は、慶応3年、和歌山で生まれた。海外で放浪生活をしながら粘菌の採集研究を進め、帰国後は熊野の自然を守るため、神社合祀に反対した。研究に没頭し、大酒を飲んで暴れ、猫を可愛がり、その奇行がとかく注目されがちな熊楠の人生を余すところなく描いた小説。

画像:縛られた巨人

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