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熊楠が遺したもの

南方学は難解と言われるが、学問領域としては自然科学の中の生物学と、人文科学の民俗学が代表格。粘菌研究に心血を注ぎ、新種の発見や『日本菌譜』をまとめるなどの業績を遺す一方で、渡英時代から始めた論文執筆は帰国後も続き『ネイチャー』『ノーツ・エンド・クイリース』などの国内外の雑誌に数多くの論文を発表している。柳田國男とも一時期交流があった。熊楠の死後、柳田は熊楠の業績を世に出そうと、熊楠との書簡を公開する等、尽力している。

『南方熊楠英文論考 ネイチャー誌篇』

南方熊楠/著  集英社

熊楠は十数年にわたる海外滞在中に、イギリスの学術誌『ネイチャー』と『ノーツ・アンド・クエリーズ』に論文を投稿している。『ネイチャー』への初投稿は、「東洋の星座」で26歳の時であった。本書は、『ネイチャー』に掲載された63の論文の全訳で、そのうち59篇は初訳である。自由投稿で他からの議論への応答という性格もあってか、英文論文は日本語の論文に比べて、論旨が明快で理解しやすい。学問に没頭していた若き熊楠の、学問的関心の源泉に触れられる。

画像:南方熊楠英文論考

『十二支考』上・下

南方熊楠/著 岩波書店

1914年1月から10年間にわたり、雑誌『太陽』に連載された記事を中心に、没後にまとめて刊行したもの。1914年が寅年のため、第1回目は虎を取り上げている。各動物を、それらにまつわる古今東西のさまざまな説話、伝説等により考察した。十二支にちなんだ動物(牛を除く)が中心だが、猫や鹿、ライオン、狼等についても言及している。熊楠の幅広い知識がたっぷりと披露されており、博学ぶりが伺える。著作の中で質量ともに最もまとまった作品。

画像:十二支考

『南方閑話』『南方随筆』『続南方随筆』

南方熊楠/著

南方熊楠は和歌山県田辺市に居を構えてから粘菌研究を第一義とし、その余暇に論文を執筆した。そして日本の雑誌に発表したものを集めてこれらの3冊の本を出版。奇異な社会風習や伝承をテーマに取り上げ、学識を駆使した世界的比較を行なっている。糸を手繰るように次々と和漢洋の書物を持ち出す熊楠の驚異的な記憶力がすごい。当時、これらの本によって熊楠の博識ぶりが世に知られ、人々を驚かせることになった。生前に出版したのはこの三冊だけであった。

『その時歴史が動いた』30

NHK取材班/編 KTC中央出版

平成16年、熊野古道を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録された。しかし、およそ100年前、政府が発令した神社合祀令により、熊野の森は伐採の危機にあった。「自然の破壊は人間の破滅につながる」と危機感を抱いた熊楠は、一人で反対運動を始める。表題と同名のテレビ番組で、平成16年7月に「世界遺産 熊野の森を守れ〜南方熊楠・日本初の自然保護運動〜」として放映された内容を再編集して掲載。エコロジストとしての熊楠の一面を浮き彫りにした。

画像:その時歴史が動いた

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