浦安市立図書館

中野孝次

1925年千葉県生れ 東京大学文学部独文科卒  1952年から1981年まで国学院大学教授。ドイツ文学の翻訳、評論、小説、随筆など作家活動は多岐にわたる。堅実な作風と人の生き方を真摯に問う作品は、高い評価と信頼を得ている。バブル景気破綻直後の1992年に出版され、真の心の豊かさについて追求した『清貧の思想』は生き方のバイブルとして話題を呼んだ。
 2004年7月死去。享年79歳。

   1988年図書館カルチャー 「中世から何を学ぶか」
   1988年著者を囲む会 「中野孝次氏を迎えて」

『ブリューゲルへの旅』

中野孝次/著 河出書房新社

著者は1966年のウィーン滞在時に、美術史美術館でブリューゲルの「雪中の狩人」に出会い、厳しい冬の自然の中に描かれた人間の生の営みに強く惹きつけられ、ブリューゲルの画があるヨーロッパ中の美術館を訪ね歩く。 ブリューゲルの描いた人物像は、主題となる人物以外にも絵の中の小さな人物一人ひとりまで丹念に書き込まれている。その一人ひとりの様々な行為、表情、仕草からは、当時の民衆の生活様式から人間の喜びや強さ、悲しみ、醜さや愚かさまで伝わってくるようである。その絵の一枚一枚、人物の一人ひとりに、著者は自分の人生を投影し思索を重ねる。

画像:ブリューゲルへの旅

『麦熟るる日に』

中野孝次/著 河出書房新社

著者の自伝的小説。「職人の子に学問は不要」という大工の父の考えで、中学へ進学できなかった著者は、父を軽蔑し、家族から孤立する。知的世界への憧憬と上昇志向から、独学で専検を取得し、旧制第五高等学校(現熊本大学)に合格した。しかし、戦争の暗い影はいやおうなく忍び寄る。学徒勤労を強いられ、終には召集令状が届く。 作品の根底には、5人の子を養った腕の確かな職人の父への畏敬の念が漂っている。著者はこの作品が文庫本で発刊された際、「亡き父と母に」という献辞をつけている。自伝的小説の続編に『苦い夏』『季節の終わり』がある。

画像:麦熟るる日に

『ハラスのいた日々』

中野孝次/著 文藝春秋

「ハラス」は著者夫妻の40代から50代にかけての13年間を共に生きた愛犬である。1972年に夫妻が新開地の横浜洋光台に転居した際、新築祝いに犬をもらい、かけがえのない存在となる。 雪山で4日間も行方不明になったり、大型犬に噛まれて大怪我をしたり、最後は悪性腫瘍で命尽きるまで、ハラス中心の日々の生活を著者は愛情をもって綴っている。9,000回を超える散歩をともにしたハラスを通して幾度も味わった、著者の「幸福感」や「生きてるんだな感」は読み手の心も温めてくれる。

画像:ハラスのいた日々

『清貧の思想』

中野孝次/著 草思社

本書が出版された1992年は、バブル景気が終わり日本中が自信を喪失し、新たな指針を求めていた時期であった。本阿弥光悦・鴨長明・良寛・池大雅・与謝蕪村など先人の生き方を例に、物や金を持つことよりも心の世界を重んじてきた日本文化の一側面に光をあてた本書は、話題のベストセラーとなった。 その後、失われた10年とも15年とも言われる時を経過した今も、財政赤字の増大、格差の拡大など世の中の病は快方に向かう様子が見られない。著者の指摘は、今こそ重く受け止める時ではないだろうか。

画像:清貧の思想

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