山本一力
様々な職業を経て1997年に『蒼龍』でオール読物新人賞を受賞してデビュー。2002年には江戸の下町を舞台に家族の絆を描いた時代小説『あかね空』で直木賞を受賞。
時代小説に現代的な経済感覚を持ち込んでストーリーを仕上げる新しい書き手として注目される。格闘シーンのない普遍的な日常生活、緻密な時代考証、深い人間の喜怒哀楽を丁寧に描き家族の団結というきちんとした「今日的テーマ」をもっている書き手。
2003年 図書館講演会 「自作を語る ―時代小説の愉しみ」
『損料屋喜八郎始末控え』
山本一力/著 文藝春秋
上司の身代わりとなって職を辞し、今は庶民相手に鍋釜や小銭を貸す損料屋となった、元同心・喜八郎を主人公とする時代小説。与力の秋山や深川のいなせな仲間たちと力を合わせて、巨利を貧る札差たちと渡り合う。悪計に対する喜八郎のチームの情報戦という趣きがあり、江戸で繰り広げられる息詰まる頭脳戦。さしずめ時代版スパイ・サスペンス小説ともいえる。時代小説に新風を吹き込んだデビュー作。
『あかね空』
山本一力/著 文藝春秋
東と西。現代でも文化や習慣など東京、京都、大阪では異なることが多い。これが江戸の宝暦の頃ならなおさらである。話は、宝暦12年(1762年)京から豆腐職人の永吉が京から江戸に下り、深川に着いたところから始まる(第一部)。月日は流れ、永吉の次男が嫁を迎えるところから、第二部が始まる。さまざまな困難が起きるのだが、家族で力を合わせて乗り越えていく様子が描かれている。本書を読み進めていくと、登場人物に対する著者の温かな眼差しを感じる。この作品で著者は直木賞を受賞した。
『家族力』
山本一力/著 文藝春秋
無償の愛を与えるのが家族。けれども、一度こじれると他人以上に深刻な事態になってしまうのも家族である。しかし、家族がどんな困難に出会っても、父親が家長としての役割を果たし、家族同士のきずながしっかりしていれば、難局を乗り切れる。さまざまな職業を経験し、離婚も二度経験し、借金2億円を抱えたこともある人気時代小説作家の体験をもとにした家族論。人とのつながりが感じられるエッセイ集。
『蒼龍』
山本一力/著 文藝春秋
主人公の弦太郎は、博打で大きな借金を作る。時を同じくして妻おしのの兄が、働いていたお店のお金に手をつけ蒸発し、夫婦はその返済を義務付けられて途方もない借金を背負うことになる。そんな中、瀬戸物屋の新年初荷売出しの茶碗・湯呑の新柄公募の貼り紙を見つけ、この礼金と出来高賃金での借金返済を考える。 本作品は実際に2億円の借金を抱え、それを返済する為に作家を志した著者自身の経験と思いが強く反映されている。この作品により著者は見事、第77回オール讀物新人賞を獲得し、時代小説作家としての人生が始まったのである。