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宮本常一という人

  宮本は、明治40(1907)年、山口県周防大島の貧しい農家に生まれた。幼い頃から祖父母や両親を助けて百姓仕事をしていたが叔父の勧めにより15歳で大阪に出、逓信講習所を経て郵便局に勤務する。その後、小学校の教員となるが、病気療養のため帰郷。療養中に柳田國男が編集していた雑誌に投稿したのがきっかけで、柳田に会う機会を得る。柳田の話から自分の目の前が開いてきたように感じた宮本は、数人で研究の会を持つようになった。その会にある時突然、渋沢敬三が参加して研究の話をした。宮本は民俗学という学問と、研究方法について意識し始める。柳田の講習会出席のために上京した折、渋沢主宰のアチック・ミューゼアムを見学に行き、渋沢と再会。その後は、小学校教員を続けながら、山村を調査したり、民俗学の研究会や講習会に参加した。昭和14年の秋、渋沢の勧めで教員を辞めてアチック・ミューゼアムに入所、それから23年にわたる食客生活と、民俗調査の旅が始まったのである。
画像:民俗学の旅

『民俗学の旅』

宮本常一 講談社

 宮本が70歳を過ぎて、今まで生きてきた道を振り返り、自省もこめて綴った自叙伝。雑誌「諸君!」の連載に加筆し、1冊にまとめた。家の歴史と祖父や父親についての章を読むと、宮本が民俗学の道に進んだことは当然のなりゆきだったと思える。恩師である柳田國男や渋沢敬三、また民俗学の仲間たちとの出会いや関係、アチック・ミューゼアムでの生活、家族、民俗学への思いのことが詳しく書かれ、当時の宮本の様子がよくわかる。

画像:旅する巨人

『旅する巨人』

佐野眞一 文藝春秋

 宮本の著書の影響でノンフィクション作家になったという著者が、膨大な資料と取材により、宮本と、彼に大きな影響を与えた祖父と父、宮本を見出し研究のパトロンとなった渋沢敬三らを丹念に追った力作である。宮本家と渋沢家の各人の生い立ちと家庭環境の比較は興味深い。当時の社会情勢や民俗学会の問題、人間関係等も詳しく描かれ、宮本の民俗学における足跡を客観的に知ることができる。第28回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。

画像:宮本常一

『宮本常一』

別冊太陽 平凡社

 2007年に宮本の生誕100年を記念して特集された。大判で図版や写真をふんだんに用い、年代を追って生い立ち、旅の足跡、柳田國男と渋沢敬三との関わり、業績等をわかりやすくまとめている。カラーの地図と詳細な旅程を要所に挿入し、宮本の調査の足跡をたどることができるのも本書の醍醐味。宮本が写した当時の村々や民具、生き生きとした人々の写真に、古き良き日本の姿を見ることができる。宮本をまず知るのに最適な1冊。

画像:宮本常一のまなざし

『宮本常一のまなざし』

佐野眞一 みずのわ出版

 表紙の宮本の表情がとても印象的である。本書は、著者が宮本の祥月命日の「水仙忌」に行なった講演と、雑誌等に掲載したエッセイ、ラジオでの談話等、宮本に関する内容をまとめたもので、随所に宮本への敬愛の念が感じられる。今なぜ宮本が再評価され始めたのかについても問題提起し、宮本の精神の継承を呼びかける。宮本の旅の足跡を記した地図と、宮本が撮影した47点の写真も収録。現代社会において宮本を読み解くヒントにもなる1冊。

画像:写真でつづる宮本常一

『写真でつづる宮本常一』

須藤功 未来社

 残された膨大な写真を中心に、宮本の思想と行動の全体像を振り返る試みとして、企画から長い年月を経て編集された。宮本が調査で撮った人々の写真、親しい人たちが撮った宮本の写真、宮本家のアルバムの貴重な写真等が、周防大島時代、郵便局員・教員時代、アチックミューゼアム時代、民俗調査と講演の日々、大学教授時代、日本観光文化研究所時代の別にまとめられている。宮本の生涯を追いながらその人柄と素顔、業績を知ることができる。

画像:旅する巨人宮本常一

『旅する巨人宮本常一』

読売新聞西部本社 みずのわ出版

 宮本が戦後に訪れた九州と山口県を、新聞記者が当時の写真と資料をもとに再訪し、当時の写真の人物や関係者を探して話を聴き、各地域と人々の暮らしの“今”を記したルポである。各地域で、かつての風景がまったく変わり、宮本を知る人がいないという状況もあって、その地域に流れた長い年月を感じさせるが、写真を見た人々が一気に当時へタイムスリップし、昔のことを語り出すことに、あらためて宮本の写真の力と重要性を認識させられる。

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