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宮本常一が遺したもの

 宮本の業績は、日本全国をくまなく回り、長い旅の記録を残したことだけではない。特に戦後、宮本はこれまでの民俗調査で得たことを生かし、民俗学だけにとらわれない、自分自身の信念に基づいた活動をしている。終戦直後には、大阪府の嘱託により戦後の食糧確保のため、各地で農業を指導し、昭和25年からは数回にわたって、八学会連合(後に九学会連合)の対馬、能登、五島列島の調査に参加した。この調査から島の生活の立ち遅れ、港湾整備の必要性を感じた宮本は、離島振興法の成立(昭和28年)に尽力する。昭和29年には、山村生活の改善のため、林業金融調査会の設立に理事として参画し、山村の経済生活実態調査にあたった。また、佐渡での住民参加型の民俗資料館開設の指導、羽茂町特産の八珍柿栽培の奨励など、地域の振興を図り、文化の伝承のため、佐渡の「鬼太鼓(おんでこ)座」(昭和44年)や、「周防猿まわしの会」の設立(昭和52年)にも協力した。そのほか、日本民俗学の新旧交代と世代間の継承を願い、大学、日本観光文化研究所(昭和41年設立)、日本文化研究所等で後進の指導にもあたるなど、自分の研究を続けながら多くの業績を残した。

『宮本常一著作集』

宮本常一 未来社

 宮本の興味は、生活誌、農業・漁業・林業の技術や歴史、食文化・交通史、口承文芸、考古学、日本文化論など広い範囲に及んだ。1人の学者でこんなに学問の範囲が広い人も珍しい。宮本の膨大な仕事をすべて網羅すると、著作集が百巻を超えると言われている。本著作集は、宮本の存命中の1968年から刊行され始め、2008年12月に第50巻目が刊行された。宮本の業績が1つの著作集にまとめられることは、後世にとって重要である。

画像:忘れられた日本人

『忘れられた日本人』

宮本常一 岩波書店

 宮本は日本各地を旅する中で村の古老の話を聴いた。古老を文化の伝承者だけでなく、生きてきた環境や生き方を知ることで、古老の果たした役割を考えようとした。聞き上手だった宮本に促され、古老たちが人生を交えて村の生活を語る。寄りあいの様子や梶田富五郎翁の話、奔放な旅をする世間師の話などは実に興味深い。本書は、古老たちの語り口を再現し、庶民の生活を生き生きと描いた宮本民俗学の代表作であり、無名に等しい人々の貴重な記録である。 

画像:炉辺夜話

『炉辺夜話(ろへんやわ)』

宮本常一 河出書房新社

 宮本が晩年に行なった講演のうち6つが収められている。文化の継承や民族と宗教、離島の生活と文化などについて、これまで調査し培ってきた豊富な知識が惜しみなく語られ、どの講演からも宮本の穏やかな人柄と民俗学に対する熱意が伝わってくる。宮本は、文化がどのように伝わり、継承され、発展してきたかを自らの調査と自身の言葉で語った。本書から、自分たちの土地に誇りを持ち、生活をより良くする知恵を持っていた当時の人々の生き方を知ることができる。

画像:庶民の旅

『庶民の旅』

宮本常一 八坂書房

 江戸時代、旅には多くの制約や障害があったが、多くの庶民が多様で自由な旅をしていた。一方、宿屋でなくても、旅人を大切な情報や知識の伝達者として受け入れる村人たちがいた。日本人は旅と旅人によって、広い世界とつながりを持ってきたのである。本書に書かれた多様な旅の様子、旅支度、費用、道中心得等は、当時の旅を彷彿とさせる。本書は宮本、田村善次郎、小久保明浩の3人が執筆し、宮本が監修した。

画像:日本残酷物語

『日本残酷物語』

平凡社

 宮本は、20世紀に入り部落民衆の生活が著しく変化する中で、民衆が味わってきた苦しみが忘れ去られる現実こそが恐ろしいという思いを強く抱いていた。本書には、中世から近代にかけて「流砂のごとく日本の最底辺に埋もれていた人々の物語」が多数収録されている。後に民俗学者となる谷川健一が企画し、さまざまな専門分野の民俗学者たちが執筆、宮本が山本周五郎、山本巴らと監修にあたった。多くの悲惨な逸話は、現在の格差社会にも通じる。

画像:宮本常一アジアとアフリカを歩く

『宮本常一、アフリカとアジアを歩く』

宮本常一 岩波書店

 日本中を旅した宮本常一は晩年に初めて海外に渡った。訪問先でも、日本での調査と同様に精力的に各地を回り、土地を観察し、人々の話を聴き、その地域の生活文化を考察している。滞在中のハプニングもなんのその、同行者と離れて単独行動を強いられても、現地の人とじかに触れ合おうとする行動力には驚かされる。本書は東アフリカ、済州島、台湾、中国への旅の紀行文、講義、その他の論考を集めたもので、宮本の貴重な外国訪問記である。

画像:ふるさと山古志に生きる

『ふるさと山古志に生きる』

山古志村写真集制作委員会 農山漁村文化協会

 棚田の美しさで有名な新潟県山古志村が、平成16年の中越地震で壊滅的な被害を受けたことは記憶に新しい。宮本はこの村を昭和45年に訪れ、村の行く末を案じて、日本観光文化研究所の所員と共に様々な提案をしていた。本書はかつての村の風景と人々の暮らしをたどるとともに、活気ある村にするための宮本の講演を収録し、地震後の村の復興を願うものである。宮本の遺志を受け継ぎ、村の再建に取り組み始めた若者の中に、宮本は今も生き続けている。

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