宮本常一がみつめた日本
『日本文化の形成』
宮本常一 筑摩書房
宮本は晩年、「海から見た日本」という壮大なテーマに取り組み、日本の源流を探る試みとして1979年から、所長を務める日本観光文化研究所で「日本文化形成史」と題した連続講義を行なった。ところが、講義終了の1981年に病に倒れ、講義に先駆けて執筆した論文が未完のまま、遺稿となったのである。本書は、その後刊行された『日本文化の形成』(全3巻 )をもとにし、テープから起こした講義と遺稿となった論文で構成されている。
『日本人を考える』
宮本常一 河出書房新社
日本人はどのように生きてきたのか。宮本が庶民の生活と文化、結婚、子育て、差別などのテーマで向井潤吉、大宅壮一ら各界人と語り合う。これまでに雑誌や本に掲載されてきた対談を1冊にまとめたもの。宮本の生の言葉には、庶民の生活をつぶさに見てきた経験と蓄積された知識の豊かさ、確かさが感じられる。子育てについての対談での「想像性や創造力はその前に自己自身の体験がないと得られないものだという気がする」などの発言には共感できる。
『女の民俗誌』
宮本常一 岩波書店
庶民の歴史の中で女の歴史はほとんど明らかにされていないが、家と実際の生活の中で女の占める位置は大きかった。本書は女の信仰と伝承についての考察と、宮本が見た昭和30年頃までの女たちを出稼ぎや海女、女工、行商、後家などの面から書いた記録で、宮本の死後に編集された。貧しい生活の中で虐げられた女たちがいた中で、夫と共に働くたくましい女たちもいた。懸命に生きる無名の女たちに向けられた宮本の温かいまなざしが感じられる。
『絵巻物に見る日本庶民生活誌』
宮本常一 中央公論社
渋沢敬三の研究の補助を機に絵巻物に触れた宮本は、絵巻物に描かれた民衆の明るさと暮らしぶりに強く心をひかれた。絵巻物にはかつての日本人の衣食住や習慣、信仰、仕事、身近かな動植物等が多岐にわたって描かれている。本書は、『日本絵巻大成』(全26巻別巻1巻 中央公論社 )の月報に連載した記事を中心に、講座での講義をまとめたもの。当時の慣習、戦の惨状、隣国の様子にも触れられており、絵巻物の解説書として大変興味深い。
『塩の道』
宮本常一 講談社
「塩の道」「日本人と食べもの」「暮らしの形と美」の3編を収録。表題の「塩の道」では、縄文時代からの製塩方法や、塩の流通とその影響、塩に関わる暮らし等が述べられている。昔の人が、塩を手に入れるために大変な苦労をしたことがよくわかり、塩の流通によってできた“塩の道”は、日本人がどこにいても海との関わりを持っていたことを証明する遺跡であるということに納得できる。庶民の暮らしが歴史を作るという宮本らしい視点がうかがえる。
『山の道』
宮本常一 八坂書房
かつて山の中には木地屋、マタギ、タタラ師、サンカなど百姓とは違うさまざまな暮らしがあり、それぞれに歴史があった。秘境とされた山や街道、峠、山の中の町などを取りあげ、山を越えて交易をする人々の往来に欠かせぬ間道や峠道の果たした役割に触れるとともに、山の中で人々がどのように暮らしてきたか、山の中にどのような人生があったのかを、古い記録や土地の人々の言い伝えに基づいて探る。田村善次郎との共同執筆。
『新日本風土記』
宮本常一 国土社
宮本が編集した『風土記日本』(平凡社 全7巻)は、当時空前の大ヒットとなったが、本シリーズは、子ども向けに書かれた日本地誌シリーズである。第1〜19巻では沖縄から北海道までの各地域を、第20巻の総論編では日本全体についてをわかりやすくまとめてあり、地域の姿を歴史や人々の生活、習慣、文化などから知ることができる。刊行から30年以上たち、状況が変化している箇所もあるが、各地域の昔からの文化を知るのに適している。
『日本人の住まい』
宮本常一 農山漁村文化協会
宮本は、住居についても早くから関心を持って調査していたが、本書はそれらを総括したものである。住居というと建築学的な見方でとらえがちであるが、宮本は、土間住まいと床住まいという、人々の住み方から住居の発達を考え、調査の実例をもとに、地域や日常の生活様式と習慣、材料との関係を織り交ぜて、住居の間取りや部屋の機能と使い方を多角的に考察した。住居が庶民の生きる場として現代より大きな意味を持っていたことがうかがえる。