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事件を追う

人物描写が類型的で、事件そのものが現実離れしており、犯人の動機にも説得力がない――世に出ている推理小説に不満があった清張は、自ら推理小説を書き始めます。人の生き様を描いてきた清張が重視したのは、事件における「動機」。現実社会の中で生きている人間が、犯罪に手を染める理由はどこにあったのか。行き過ぎるマスコミ報道、汚職事件のスケープゴート、官僚社会のひずみ…。清張の描く犯人の社会環境や心理描写は、大衆の共感を得るものでした。また、事実の積み重ねから事件の全貌を追う清張の創作方法は、まさに作中の刑事たちの捜査方法と同じです。清張の書いた作品は「社会派推理小説」と呼ばれてブームになりますが、やがて、実際に日本で起きた重大事件を追ったノンフィクションも手がけるようになります。
画像:疑惑

疑惑

松本清張 文藝春秋 1985

雨の日に一台の車が埠頭から海に飛び込んだ。乗っていたのは一組の夫婦で、妻の鬼塚球磨子は助かり、夫の福太郎は死亡する。球磨子は福太郎の後妻で、福太郎には多額の保険金がかけられていた。マスコミは、前科があり、評判も悪い球磨子の犯行であると盛んに書きたてた。誰もが球磨子を疑ったが、国選弁護人の佐原は、彼女の無実を証明しようとする。果たして、彼女は本当に保険金目当ての殺人犯なのか。「オール読物」昭和57年2月号に「昇る足音」の題で掲載された推理小説。

画像:砂の器

砂の器

松本清張 光文社 2006

蒲田操車場で男の惨殺死体が発見された。被害者が話していた東北弁と「カメダ」という言葉を手がかりに捜査が進められるが、難航する。被害者は人に恨まれることなど決してない善良な男だった。誰が何の目的で殺したのか。警視庁の今西刑事は執念深く事件を追い続け、断片的な事実が少しずつ明らかになる。今西が事件解決の手がかりを求めて島根、三重、石川、大阪と歩くうち、ある若者の暗い過去に辿り付く。読売新聞の夕刊に昭和35年5月から36年4月にかけて連載された社会派推理小説。

画像:点と線

点と線

松本清張 光文社 1960

博多の海岸で発見された男女の死体は、東京から来た××省の課長補佐と赤坂の割烹料亭の女中であった。地元の警察は心中とみるが、鳥飼刑事は男のポケットに残された食堂車の受取証の記載に不審を抱き、独自に捜査を始める。一方、警視庁捜査課の三原警部補も、××省の汚職問題を追っていた。容疑者の安田にはアリバイが…。時刻表を駆使したリアルな状況設定と、周到なアリバイをいかに破るかに興味をそそられる。犯行動機に重点をおいた内容は社会派推理小説として発表当時ブームを巻き起こした。清張初の長編推理小説。その後書かれた『時間の習俗』には鳥飼・三原が再登場、清張唯一のシリーズものとなった。

画像:眼の壁

眼の壁

松本清張 新潮社 1983

会社の資金繰りに苦しむ関野課長が「パクリ屋」と呼ばれる手形詐欺に騙され、自殺に追い込まれた。直属の部下で事件の詳細を綴った関野の遺書を受け取った萩崎は、課長を死に追いやった男を追わずにはおれなくなる。ところが、パクリ屋の背後には右翼や政治家の影がちらついていた…。人々の普通の生活、何気ない会話の中に事件の鍵があり、読み進むうち、虚構でありながら現実のような錯覚に陥ってしまう。雑誌「週刊読売」に昭和32年4月から12月まで連載された。『点と線』と共に清張の名を世間に知らしめた長編推理小説。

画像:神々の乱心

神々の乱心

松本清張 文藝春秋 2000

宮中の女官の部屋子である北村幸子が自殺した。幸子は女官の依頼で、ある宗教団体に出入りしていた。遺品の紋章入りの通行証に興味を持った萩園泰之は、幸子の自殺の真相を突きとめようとする。一方で特攻警察の吉屋も、宗教団体の周辺を捜査していた。戦前、国家神道を否定する教理で弾圧・検挙された新興宗教や、二・二六事件前後の宮中への関心を、関係者へのインタビュー記録や膨大な史料をもとにフィクションに仕立てた。『昭和史発掘』執筆以来、清張が20年以上も構想を温めていた作品で、雑誌「週刊文春」に平成2年3月から4年5月まで連載していたが、その後絶筆、未完となった。

画像:日本の黒い霧

日本の黒い霧

松本清張 文藝春秋 2004

敗戦後、アメリカに占領された日本は、GHQの高圧的な命令や内部の勢力争いに翻弄されていた。アメリカ軍占領期の昭和20〜27年に起きた下山国鉄総裁の変死事件、昭和電工疑獄・造船疑獄事件、帝銀事件など日本中を騒がせた重大事件の裏には、アメリカの関与があったと清張が独自に調査、推論したノンフィクション。作家の大岡昇平が「ロマンチックな推理」と批判したり、現在では清張の推理とは違う事実が判明している事件もあるが、帰納法的な論察は読み応え十分。雑誌「文藝春秋」の昭和35年1月号から12月号まで連載された。

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