石井桃子〜雲に乗った女の子
『ちいさなうさこちゃん』、『ピーターラビットのおはなし』、『クマのプーさん』。図書館で子どもたちに人気のあるこれらの本の表紙には「石井桃子」の名前があります。子どもの頃は気づかなかったけれど、大人になってから、「この本もあの本も石井桃子の本だと知った」という声もよく聞きます。石井桃子が児童文学の世界にいなければ、図書館にある子どもの本は今よりもっと精彩を欠いたものになっていたことでしょう。
石井桃子は、“クマのプーさん”に出会い、その魅力にとりつかれてから、児童文学の世界に入っていきます。戦後、ベストセラーになった『ノンちゃん雲に乗る』のハツラツとした主人公の女の子は、子ども時代の石井自身を投影しています。よりよい子どもの本を創るために東京荻窪の自宅に「かつら文庫」を開設しました。子どもたちによみきかせをし、反応をみながら、訳したり、創作していった物語の文章は、美しい日本語のリズムがあり、声に出して読むと心地よく体にしみわたっていきます。石井の仕事への情熱とこだわりは、晩年になっても衰えませんでした。
石井が遺した数々の言葉の中に、次の言葉があります。
子どもたちよ 子ども時代をしっかりとたのしんでください。
おとなになってから 老人になってからあなたを支えてくれるのは
子ども時代の「あなた」です。
2001年7月18日
(杉並区立中央図書館開催の「石井桃子展」に寄せられた色紙のことば)
石井桃子は101年の生涯の中で、編集者、翻訳者、創作者、児童文学者として、たくさんの作品を生み出し、子ども時代をしっかり楽しむためのたくさんの本を遺してくれました。現在のそしてこれからの子どもたちにそれらが読み継がれていくことを願いながら、石井桃子の生涯とその仕事を振り返ります。