昭和初期
石井桃子の仕事 児童文学者として
児童書を編集するなかで児童文学への理解を深めた石井は、ロックフェラー財団奨学金による留学の機会を得ます。アメリカとカナダで優れた児童図書館員や編集者と交流し、帰国後は、子ども文庫を開きます。それまでの観念的な童心主義ではなく、目の前で生きる子どものための児童文学のあり方を求めていきます。
児童文学の旅
石井桃子/著 岩波書店 1981年
石井桃子はその生涯で、欧米を中心に何度か旅をしている。 移動のほとんどが船と汽車という欧米への留学に始まり、友人と一緒に自動車で回ったイギリス初夏の旅、児童文学の国際会議に出席したカナダへの旅など、精力的に仕事をしている様子がうかがえる。 ピーターラビットが誕生した湖水地方やファージョンの作品の舞台となっているサセックスへも訪れており、著者が翻訳した作品の世界をさらに深く知ることができるとともに、作品への思い入れも感じることができる。
子どもと文学
石井桃子/ほか共著 福音館書店 1987年
石井桃子がいぬいとみこ、瀬田貞二、松居直らとともに児童文学のあり方について話し合いまとめたものである。Tは6人の日本作家(宮澤賢治など)の作品が児童文学としてどうかという視点から評価している。Uの「子どもの文学とは?」では子どもの文学に重要な点は何かということにふれている。石井桃子はUで、「ファンタジー」、「子どもたちは何を読んでいる?」の項目を受け持っている。最後に石井は本の中にはすばらしい世界があるということを子どもたちに知らせていくことが、子どもの文学に関心を持つ者の任務だと語っている。
新編 子どもの図書館
石井桃子/著 岩波書店 1998年
石井桃子は欧米での視察の経験からは、「よりよい子どもの本を創るためには子どもがどんな本を喜ぶかを知ることが大事」と考え、自宅に「かつら文庫」を開く。その活動や子どもたちの読書記録などをまとめた本である。初版は1965年、1998年に出版された新編には、その後の活動記録や同窓会の様子が加えられている。 「この本を読んで文庫を始めた」という声も寄せられ、1970年代に全国に文庫が飛躍的に増加するなど、社会に大きな影響を与えた。図書館で初めて児童奉仕に携わる者にとっても最適の本である。