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昭和初期

1927(昭和2)

江戸川乱歩の1回目の休筆宣言
作品への羞恥と自己嫌悪から筆を絶ち、放浪の旅に出る。

1928(昭和3)

江戸川乱歩「陰獣」を「新青年」夏の増刊号に発表
14ヶ月の休筆明けに発表された中編。非常な反響があり、雑誌としては異例の再版がされた。

海野十三「電気風呂の怪死事件」を「新青年」に発表
日本SFの父である海野のデビューは探偵小説であった。



画像:振動魔

振動魔(『怪奇探偵小説傑作選5』)

海野十三/著 筑摩書房(文庫) 2001

綿密な計画の元に実行された殺人事件の全容を、物理学者が語り明かす。こんなことが本当にできるのだろうか。物体の振動を利用するという奇抜な犯行方法が披露されるが、海野十三は、早稲田大学で電気工学を学び、逓信省電気試験所の研究員だった経歴の持ち主。『赤外線男』『電気風呂の怪死事件』など科学知識を活かした作品を数多く発表した。[初出 「新青年」 1931]

1929(昭和4)

探偵小説全集ブーム
平凡社の『ルパン全集』を皮切りに、改造社、春陽堂、博文館などの出版社から探偵小説全集が刊行された。

大下宇陀児「蛭川博士」を「週刊朝日」に連載
平易な文章で犯罪小説を得意とした大下は、乱歩に続いて昭和初期の推理小説界で活躍した。「蛭川博士」は大下には珍しい本格長編もので代表作のひとつ。



画像:風船殺人

風船殺人(大下宇陀児探偵小説選1』)

大下宇陀児/著 論創社 2012

大正14年にデビューした大下宇陀児は、江戸川乱歩や甲賀三郎とともに黎明期の日本創作探偵小説界を牽引した作家のひとり。探偵小説の芸術性や文学性を重視し、人間心理を取り込んだ犯罪小説を得意とした。本作は昭和10〜13年頃に流行していた娯楽雑誌の犯人当て懸賞小説のひとつで、風船を使った殺人トリックもさることながら、懸賞募集の煽り文句も面白い。[初出 「キング」 1935]

1931(昭和6)

浜尾四郎「殺人鬼」を「名古屋新聞」に連載
日本初の本格長編探偵小説といわれている。英米探偵小説の翻訳から始まった日本の探偵小説において、探偵小説プロパア論を展開し、その実践とした作品。



画像:殺人鬼

殺人鬼

浜尾四郎/著 早川書房 1995

実業家秋川の娘・ひろ子は、父が何者かに脅迫され身の危険を感じていることを探偵の藤枝に相談した。ところがその夜、母親が毒殺されてしまう。一方秋川は有名な探偵・林田を雇うが、その後も弟や女中が次々と惨殺されてゆく。
反目しあう家族に起こる連続殺人を描いた本作は、ヴァン・ダイン著『グリーン家殺人事件』の影響を色濃く受けている。浜尾四郎は元検事で弁護士。事件捜査の的確な描写と探偵二人の推理合戦が楽しめる。[初出 「名古屋新聞」 1931]

『江戸川乱歩全集』(平凡社)刊行
乱歩の出版嗜好癖が大いに発揮された全集。内容説明の解説文は横溝正史が書き、各巻に別冊付録がつく豪華なものであった。

甲賀三郎と大下宇陀児の探偵小説論争
「東京日日新聞」紙上で後の甲賀、木々論争の前駆となる本格変格論争がおこった。変格は探偵小説ではないとする甲賀に対して、大下が反論した。

1932(昭和7)

江戸川乱歩、2回目の休筆宣言 『新作探偵小説全集』(新潮社)刊行。各作家に長編を書かせ毎月1冊以上刊行しようという、前例のない画期的な企画であった。

1934(昭和9)

小栗虫太郎「黒死館殺人事件」を「新青年」に発表
戦前を代表する異色推理作家である小栗は「新青年」の「完全犯罪」で昭和8年にデビューし、翌年に長編「黒死館殺人事件」を発表した。奇抜な舞台設定と超論理の異様な作品世界を創り上げた。

1935(昭和10)

夢野久作『ドグラ・マグラ』刊行
読んだ者は精神に異常をきたすといたわれた奇書。わずか10年の作家生活のほぼ全域にわたって推敲を重ねた1000枚余りの長編であり、「幻魔探偵小説」と銘打たれて刊行された。

1936(昭和11)

甲賀三郎対木々高太郎の探偵小説論争
甲賀の「探偵小説は芸術たり得ない」という説に対して、木々は探偵小説の特徴である謎、論理、解決は形式にすぎず、探偵小説の本質はその芸術的内容にあると反論した。

1937(昭和12)

木々高太郎『人生の阿呆』で直木賞受賞
推理作家として初めて直木賞を受賞した。『人生の阿呆』は持論の探偵小説芸術論を実践した作品といえる。



画像:折蘆

折蘆(『日本探偵小説全集7』)

木々高太郎/著 東京創元社(文庫) 1985

東儀は、自分が昔交際していた節子を姉のように慕う女から、過去の殺人事件の犯人は夫ではないかと相談を受け調査を開始する。そんなさなか新たに起こった奇妙な殺人事件。なんと被害者は節子の夫・永瀬だった。二つの事件には繋がりがあるのだろうか。
著者は「探偵小説は文学でなければならない」と主張しており、この作品も推理以上に心理描写を多く書き込んでいる。[初出 「報知新聞」 1937]

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