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高度成長期〜昭和50年代初頭

1958(昭和33)

松本清張『点と線』『眼の壁』が大ベストセラーに
謎や奇抜なトリックに偏向した従来の推理小説は、一部の固定した読者向けであった。しかし、松本清張は社会性のある推理小説を世に送り出し、それまで推理小説に興味がなかった一般大衆に読者層を広げた。



画像:点と線

点と線

松本清張 文藝春秋(文庫) 2009

博多の海岸で発見された男女の死体は、東京から来た××省の課長補佐と赤坂の割烹料亭の女中であった。地元の警察は心中とみるが、鳥飼刑事は男のポケットに残された食堂車の受取証の記載に不審を抱き、独自に捜査を始める。一方、警視庁捜査課の三原警部補も、××省の汚職問題を追っていた。容疑者の安田にはアリバイが…。時刻表を駆使したリアルな状況設定と、周到なアリバイをいかに破るかに興味をそそられる。犯行動機に重点をおいた内容は社会派推理小説として発表当時ブームを巻き起こした。清張初の長編推理小説。その後書かれた『時間の習俗』には鳥飼・三原が再登場、清張唯一のシリーズものとなった。[初出 「旅」 1957-1958]

1959(昭和34)

創元推理文庫創刊

1963(昭和38)

日本推理作家協会設立
日本探偵作家クラブが法人化され、社団法人日本推理作家協会が設立された。

1964(昭和39)

「宝石」廃刊
戦後推理小説の核となったこの雑誌は創刊250号記念号をもって廃刊した。

1965(昭和40)

江戸川乱歩没



画像:天使の傷痕

天使の傷痕

西村京太郎/著 講談社文庫 2015

新聞記者の田島は、恋人とのハイキング中に殺人事件に遭遇する。被害者が死に際に残した「テン…」という言葉が天使を意味することを掴んだ田島は、記者らしい観点から推理・取材を続けていく。ストリッパー、バーのマダムなど次々と浮かび上がる容疑者たち。果たして「天使」とは誰のことなのか? 薬害という当時の社会問題を取り入れた本格推理小説で、第11回江戸川乱歩賞を受賞した。[初出 講談社 1965]

1969(昭和44)

森村誠一『高層の死角』が江戸川乱歩賞受賞
松本清張の登場後に隆盛していった社会派ミステリーは、ミステリーの読者を拡大させる一方、推理小説の特殊性を薄める結果ともなった。そんなミステリー沈滞期のなかにあって森村誠一の『高層の死角』は本格推理復活のきざしと歓迎された。



画像:高層の死角

高層の死角

森村誠一/著 祥伝社文庫 2009

東京の巨大高層ホテルの最上階でこのホテルの社長の死体が発見された。容疑者として浮かび上がった社長秘書の冬子は、捜査を担当する刑事・平賀の恋人だった。二重に鍵のかかった完全なる密室に平賀が挑んでゆく中、今度は福岡で冬子が死んでいるのが見つかる…。
森村誠一はホテルニューオータニなどで勤務経験があり、描かれるホテルの内情はリアリティ満点。第15回江戸川乱歩賞受賞作。[初出 講談社 1969]



画像:蒸発

蒸発

夏樹静子/著 光文社文庫 2007

戦地ベトナムから帰国した新聞記者の冬木は、不倫の相手・美那子が、夫と息子を置いて家を出たことを知る。しかし、札幌行きの飛行機に乗ったはずの美那子は、上空で忽然と消えてしまっていた。
さまざまなトリックと伏線に丹念な取材によるディテールが絡み合う、夏樹静子の初期代表作。第26回日本推理作家協会賞を受賞した。[初出 光文社 1972]

1974(昭和49)

『宝石推理小説傑作選』(いんなあとりっぷ社)刊行

1975(昭和50)

探偵小説専門誌「幻影城」創刊
過去の名作の復刻が中心だったが、新人発掘のために幻影城新人賞を創設し、泡坂妻夫、連城三紀彦、田中芳樹らを世に送り出した。1979年に廃刊。



画像:11枚のとらんぷ

11枚のとらんぷ

泡坂妻夫/著 東京創元社(文庫) 1993

自身もマジシャンである泡坂妻夫による、三部構成の長編ミステリ。第一部は、素人マジック・グループのマジック発表会のドタバタの様子が描かれ、その終わりに殺人事件が起こる。第二部は、作中作の奇術小説短編集『11枚のとらんぷ』が挟まれ、第三部で世界国際奇術家会議に舞台を移し、謎解きが行われる。マジックとミステリが融合した一作。[初出 「幻影城」 1976]



画像:幽霊列車

幽霊列車

赤川次郎/著 文藝春秋(文庫) 1981

走っている列車から八人の乗客が忽然と姿を消した!? 現場の岩湯谷温泉へ向かった四十路の警部・宇野は、ひょんなことから事件に興味津々の女子大生・夕子と一緒に真相を追うことになる。
昭和51年、第15回オール読物推理小説新人賞を受賞。平易な文章と独特のユーモアセンスが読者を飽きさせず、現在も続くロングシリーズ。[初出 「オール読物」 1976]

1977(昭和52)

週刊文春ミステリーベスト10開始
「週刊文春」の年末発売号に発表される推理小説のランキング。当初は日本推理作家協会員へのアンケートで決定されていたが、現在ではミステリー作家、評論家、書店員など、アンケートの枠が広がっている。

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