日本SF小説の黎明
1960年代から70年代は、日本で本格的なSF小説が書かれ始めた時代でした。第二次世界大戦後高度経済成長期に入った日本は、民間投資の増大や人口増加などによる豊富な労働力、国民の消費意欲向上などを背景に、科学技術の進歩も相まって、工業生産力も成長、1968年にはGNPが世界第2位になるまでに成長しました。東京オリンピックや大阪万博の開催もこの時期にあたります。
一方、世界では東西冷戦は激化、核保有国も増加傾向にありました。米ソは科学技術力を競うかのように、原子力発電所等の建設、人工衛星の打ち上げや宇宙船・宇宙ステーションといった宇宙開発も始まりました。
そんな時代に、未来や仮想世界を描くSF小説が日本でも書かれ始めたのは至極自然な流れでありました。SFを扱った同人誌や雑誌が誕生し、多くのSF作家が誕生しました。タイムトラベルや超能力といったものに限らず、極限世界での社会シミュレーション、神や歴史をあつかったものなど、瞬く間にたくさんの作品が発表され、現代日本SFの基盤となりました。
それから約半世紀、近未来だった21世紀はすでに10年以上が過ぎ、世界情勢や社会構造は大きく変化しました。目覚ましい科学技術の進歩とともに、環境破壊や社会的格差など、人々の不安要素も以前とは変化しています。また、阪神淡路大震災や東日本大震災を経験し、自然災害の恐怖を目の当たりにしています。
今回、日本SF小説界黎明期の作品にスポットをあて、時代背景、当時の未来予測とも言える作品世界を読み解き、現代社会との相違や参考にすべきこと、また、活躍した作家たちの果たした役割などを紹介します。