大正期に流行した童話から脱却、リアルな作品群を土台に、ファンタジーという新し い流れを作り出した作品は、佐藤さとるの日本土着の小人探しの長編『だれも知らない 小さな国』でした。いぬいとみこはイギリスの小人の物語『木かげの家の小人たち』を えがき、ファンタジーの世界へとつながる架け橋となります。 神沢利子は『銀のほのおの国』で異世界への冒険を、舟崎克彦は『ほっぺん先生の日 曜日』でユーモラスな世界を、斉藤惇夫は『冒険者たち』をえがくなど、ファンタジー の手法の模索が続きます。 1980年代には、角野栄子の『魔女の宅急便』、岡田淳の『二分間の冒険』、などファン タジーの世界は多様化し、数多くの作品が世に出ます。 日本の独創的で、本格的な「ハイファンタジー」は1988年以降、二人の作家によって 始まります。荻原規子は『空色勾玉』、『白鳥異伝』、『薄紅天女』の勾玉三部作で、 日本神話を主題に二つの文化が対立する別世界をえがき、人の生き方への問いを投げ かけました。上橋菜穂子は『月の森に、カミよ眠れ』で、二つの文化の対立を神話的 にえがき、『精霊の守り人』等の守り人シリーズでは、神話的な国を細部にわたりえ がくことで、ファンタジーという別世界の骨組みを構築させました。