青系
空の青、海の青は神秘と憧れの感情を起こさせる。藍染の藍は最古の植物染料の色として、多くの民族で利用されてきた。反対に青い鉱物は稀少なため、青い絵の具は神聖で高貴なものを象徴し、西欧では聖母マリアの衣の青色が印象的だ。
日本では、冠位十二階の八位に、大仁(だいにん)(濃い青)、七位に小仁(しょうにん)(薄い青)が位置づけられている。平安時代の延喜式には、藍染の染色が紹介されており、藍染に黄ハダを加えた色を藍色と名づけている。が、「藍四十八色」という表現もあるとおり、藍はその濃淡の薄いほうから、甕覗き、水色、露草色、千草、はなだ、紺、褐色、留まり紺など、ひとつひとつに名前がついている。
原料の藍は、日本に自生する山藍に替わり、中国から伝わった蓼(たで)藍(あい)が全国的に広がった。藍はタデ科の1年草で、葉や茎にインディゴという色素成分を含む。藍の葉を発酵させてスクモとし、瓶の中で石灰と灰汁、清酒などを加え、さらに発酵させる。この瓶に浸した布を空気にあて、酸化させることを繰り返して染めるのが藍染である。藍は麻や木綿などの植物繊維も、絹などの動物繊維もよく染まり、堅牢で褪色しにくく、止血効果があり、虫除けになることから、武士の鎧おどし、剣道の胴などにも藍が使われている。
ジャパンブルーとは、明治7年、開成学校(東京大学の前身)に招かれた英国人教師ロバート・W・アトキンソンが、藍染の衣服を着た日本人が多いのに驚き、『藍の説』に書いたことから、広まったことばである。ヨーロッパでジャポニズムが流行した時代、焼き物や浮世絵に使われた藍色は、日本の色の象徴として新鮮に受け止められた。歌川広重の浮世絵に印象的な藍色はHiroshige Blue と呼ばれた。工芸の分野では、鍋島焼き、有田焼、切子ガラス、手ぬぐい、足袋、暖簾と、藍・青の色を施した作品は現代でも数多く作られている。西洋のものにも日本のものにもよく合う青色系の色は、いつの時代も人々の身近で愛されている。
『藍染め』
NHK「美の壺」制作班/編 日本放送出版協会
日本人が藍で衣服を染め始めたのは、飛鳥時代とされる。その深い青は、宮廷に仕える人々の衣服に用いられ、江戸時代になると庶民の間にも広まっていった。
本書は藍染めを鑑賞するツボとして、以下の三点をあげる。一つ目は、「生きている藍を愛でよ」−藍は染めた後も変化し続け、色が深くなる。この天然染料ならでは微妙な風合いを楽しむ。二つ目は、「柄は粋な遊び心」−藍と白のわずか二色で表現される江戸の隠し文字や縁起物の意匠を楽しむ。三つ目は、「絞りに指先の感覚を味わう」−にじみやしわが織り成す偶然の美を楽しむ、である。
テレビ番組を元にした美術鑑賞シリーズの1冊。写真も豊富で、手軽な手引き書として利用できる。